日本では、効果がないにもかかわらず高いお金を巻き上げる、いわゆる「エセ科学ビジネス」がよく流行ります。では、エセ科学とは何なのか、どうやったら引っかからないようにできるのでしょうか。
エセ科学とは
エセ科学とは一言でいうと「一見科学的に見えるが、実際は科学ではないもの」です。
科学とは詳細な実験と研究によって効果や再現性が実証されたものであり、エセ科学とは似て非なるものです。
日本では、実際には効果がないにもかかわらず効果があるというふうに宣伝し、無知な消費者から高い金を巻き上げる「エセ科学ビジネス」がよく流行ります。
エセ科学一覧
日本で流行った効果のないエセ科学ビジネスは以下の通りです。
水素水
最近流行ったエセ科学といえば「水素水」です。
何でも、水素水には多量の水素が含まれており、それらが体の悪性物質を浄化するらしいです。
エネルギーとしての水素それ自体はクリーンであることからか、「水素水を飲めば体内がきれいになる」――そんなイメージを抱いてしまう人が少なくないからなのかもしれません。
しかしよく考えてみればそもそも水自体が「H2O」で表されるように、水素を大量に含む物質です。わざわざ水素水などと言わなくても、ただの水でも同じなのです。
「普通の水と違って水素水には水素が大量に含まれている!」などと反論する人もいましたが、もしそうならばその水は重水素という別の物質であり、もはや飲み水ですらないはずです。
そもそも水素が大量に含まれていればいるほど健康に良いという根拠も不明なので、「水素水を盲信している人=情弱」というのが現在の共通の見解となっています。
マイナスイオン
一昔前に流行ったエセ科学が「マイナスイオン」です。
「マイナスイオンを発生させることによって大気中の汚れを吸着して空気を綺麗にする」という触れ込みで各家電メーカーが広告、販売をしていました。
有名どころでいうとシャープのプラズマクラスターやパナソニックのナノイーでしょうか。
家電メーカーは精神安定・不眠の改善、アレルギーの抑制・血液浄化といった人体に直接作用するものから、空気浄化、脱臭、除菌の効果があると宣伝していましたが、実際にはそのような効果は実証されていません。
そもそもマイナスイオンとはつまるところ塩化物イオンや水酸化物イオンなどの、ただの陰イオンに過ぎないのであって、それ以上でもそれ以下でもありません。
もちろん、高校で履修する化学をきちんと理解している人なら分かると思いますが、「陰イオン=体に良い」などということはありません。陰イオンは単なる電荷を帯びた原子にすぎないのであって、陰イオンだからといって健康増進作用があるというのは全くの勘違いです。
ゲルマニウム
中高年によく売れたエセ科学製品といえば「ゲルマニウム」です。
曰く、「ゲルマニウムには特殊な電磁波を放出する性質があり、その電磁波が体に良い作用を及ぼす」とのことです。
確かにゲルマニウムには32度以上の熱や光が加わると電子を放出するという性質がありますが、電子が体に当たったからといって体に良いわけではありません。
そもそも電子が体に当たったくらいで健康になれるのなら誰も苦労しません。
電子なんてパソコンやスマホ、蛍光灯などの光からも常に放出されているものですが、これらを浴びたからといって健康になれるわけがないのを思えば、ゲルマニウムにも効果がないことくらい分かりそうなものです。
コラーゲン
未だに女性に根強い人気を誇るのが「コラーゲン」です。
コラーゲンとは人間の皮膚の潤いを保つ成分であり、コラーゲンが多いほど張り・艶のある美しい肌になるそうです。
確かに肌の張り・艶がある人の皮膚には大量のコラーゲンが含まれているというのは事実です。人間は生まれた直後、つまり赤ん坊の状態ではプルプルとした肌をしていますが、老化に伴い、しわしわの老人のような肌へと変化していきます。
そのため、大量のコラーゲンを摂取すれば肌の老化を防げるという考えでコラーゲンを大量に摂取しようとする女性が後を絶ちません。
しかしコラーゲンは単なるたんぱく質の一種なので、経口摂取しても胃で分解され、最終的には便として体外に排出されます。したがって、口から食べたコラーゲンがそのまま吸収されて肌のコラーゲンになるなんてことは当然ありません。
「でも、分解産物は吸収されるのだから、それを原料にしてコラーゲンがどんどん作られるのでは?」と期待する人もいるかもしれませんが、残念ながらそれもありません。
生物の体内にはさまざな物質が存在しますが、それらの合成経路は決まっています。コラーゲンの場合、分解されたものを再合成する回路が人体には存在していないので、コラーゲンを経口摂取しても何の効果もありません。
美肌のことを気にするのならば、紫外線を避け、十分な睡眠と水分を取ることを心がける方がよっぽど効果があります。
ブルーベリー
ブルーベリーを食べれば視力が上がると言われていました。
ブルーベリーはその名の通り、濃い青紫色の果実が印象的です。この青紫色の「アントシアニン」が「目に良い」と言われる成分と関係しています。他にもビタミンA、ビタミンC、ビタミンEも豊富であり、確かに目に良さそうな気もしてきます。
ブルーベリーが目に良いと言われるようになったのは、第二次世界大戦中のとあるパイロットの発言がきっかけです。
第二次世界大戦中、夜間飛行や明け方の攻撃の際、薄明かりの中でも物がはっきりと見えたと証言したイギリス空軍のパイロットがいました。このパイロットは毎日食べるほどブルーベリーのジャムが大好きだというのです。
これを聞き、ブルーベリーの研究を進めてたところ、ブルーベリーに含まれる色素である「アントシアニン」が視機能を改善するということがわかったのです。
しかし視力が悪いというのは、眼球のピントを調整する毛様体筋(もうようたいきん)という筋肉が硬くなり、遠くの物を見る時に水晶体を薄くできずに遠くの物がぼやけて見えてしまう現象のことを指すのであって、ブルーベリーを食べたからといって視力が上がるわけではありません。
ブルーベリーはあくまでも目に良さそうな成分を大量に含んでいるというだけであって、ブルーベリーを食べると直ちに視力が向上するというわけではないことに注意です。
(もちろん、ブルーベリー自体は栄養価も豊富で美味しいものなので、視力が上がるわけではないからといって食べる必要がないというわけではありません)
妊娠菌
昨年流行ったのが「妊娠菌」です。
曰く、「妊娠した人は妊娠菌なるものに感染しており、妊娠菌によって妊娠確率が高まったがゆえに子供を授かることができた。だから妊娠した人からその妊娠菌を分けてもらうことによって子宝を授かる確率が高めることができる」そうです。
メルカリでは妊娠菌を授かろうとして上記のような妊娠米(注:妊婦が直接触れたお米、妊娠菌が付着しているとされる)を高値で販売し、それが次々落札されるという怪奇現象が発生しました。
しかしよく考えてみれば妊娠菌それ自体が意味不明なものです。当然のことながら、妊娠菌などという菌は現在確認されていません。というより、妊娠確率を上げる菌など現代において一つも確認されていません。
にも関わらず「妊娠菌」などというものにまで手を出してしまうのは、よほど科学知識に乏しいのか、それとも不妊治療などで精神を消耗してしまい藁をも掴む気持ちで縋りつこうとする心情があるのかのどちらかでしょう。
しかしいずれにしても、まともじゃないのは確かです。
エセ科学に引っかからないようにするためには
なぜ人はこういったエセ科学に騙されてしまうのでしょうか。どうやったらエセ科学に騙されずに済むのでしょうか。
考えられる対策は以下の通りです。
- 高校レベルの化学程度はきちんと学習しておく
- 根拠、証拠があるのか確認する
- 再現性(他の誰もが同じような効果を得られるのか)を確認する
- どういう仕組みなのかを調べる
エセ科学に引っかかってしまう人の最大の特徴は「理数系の知識に乏しく、自分の頭で考えたり検証することを放棄している」という点です。
こういうタイプの人間は広告業の人から見ても非常に「おいしい」存在で、エセ科学に基づくボッタクリ商品を売りつけるには格好のカモです。
こういった人間がいつの世も大量に存在しているので、エセ科学というのは金になります。だからこそエセ科学はいつの時代もなくならないのです。恐らくこれからも次のボッタクリ商品が登場することでしょう。
だからこそ、最低限の知識は身に付けて騙されないように自衛していくことが大切なのです。